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瀬戸市品野町の動物病院。品野ペットクリニックです。

オウム病の検査について

どんな病気?人にうつる?

頭が痛くなる話ですが、まずは下記のサイトをご覧ください。
診療時によくある話で、「簡単に説明して」ということになるのですが、これらのサイトやまとめは、情報を中立に、客観的に、そして最大限簡潔にまとまっているのです。
「むつかしい話をできるだけ簡単に」が我々の仕事でもあるのですが、これ以上は無理です。

国立感染症研究所 感染症情報センター 「感染症の話」
愛知県衛生研究所 生物学部 オウム病について

むつかしい話ばかりでいけませんが、現実です。「簡単な」病気なんてないんです。
もう少しかみ砕いた表記で書いてあるのが、こちらの書籍です。

コンパニオンバードの病気百科 誠文堂新光社 小嶋篤史(楽天ブックス)

簡単にといって、これ以上はしょるとそれはただの不十分になってしまいます。
頑張って読んでみてください。

検査について

当院が依頼している検査会社でのクラミジアの検査は
・糞便
・クロアカスワブ
・血液
のいずれかを用いて行います。
それぞれの検査材料には、いいところと微妙なところがあります。
どうしてそうなっちゃうかというと、「遺伝子」という、生物の最小の情報を検出する検査ですので、精密すぎるからなのです。

・糞便
 いいところ
・鳥は痛くない。
 微妙なところ
・遺伝子が検出されたとして、同居(ケージが別でも)鳥の排菌など、状況によっては本当にその子の「感染」を示しているか不明。
・病原体が糞に毎日出ているとは限りませんよ?
  「3日から5日分の新鮮な便をパックして冷蔵保存して、混ぜて検査しましょう。」で対応しましょう。

・クロアカスワブ
いいところ
・新鮮かつ間違いなく被検固体の総排泄腔内に遺伝子があったことが証明されます。
微妙なところ
・鳥は若干痛いかもしれません。怒るかもしれませんね。
  今とった検体に排菌してるとは限りませんよ?
・血液
いいところ
・保菌していることの証明です。血液中に遺伝子があれば間違いないといえます。
微妙なところ
・保定、採血ができないとだめです。

検査の結果をうけて、次にとるべき行動があるわけで。。。。

 検査検体を検査会社に送付すれば、必ず検査結果が返ってきます。
 この検査の結果はシンプルで、陽性か陰性かです。そう、○か×なのです。

陽性判定が返ってきた場合
 検査結果が陰性になるまで投薬することになります。
 用いる薬品は、そもそも薬ですから、「絶対何の副作用もない」ものではありません。
 様々な障害を起こす可能性がある薬品を長期投与しないといけません。
 基本としては45日程度が一つのサイクルで、再検査でダメならもう1サイクル。その繰り返しです。
 人と動物で共通の感染症で、人で確認された場合は保健所に届け出る義務のある感染症です。
 鳥で確認されても報告義務はございませんが、飼い主や隣人など、人にうつった場合は大変です。
 厳重警戒をしないといけません。

 そんな話をした時点で、「先生、検査の間違いってことはあり得ないですか?」というのは、お気持ちはお察ししますが、おすすめしません。たしかに、世の中の検査で100%を保証するものはないと思います。それは検査手技の理論がどうこうということもありえますが、採材して、提出して、検査を実施して、検査結果を作成・報告して、という流れのどこかの過程でのミスがあり得るってことです。でも結果が出た後でそれを言い出すなら、陰性が出ることが前提の検査受診であって、もやもやするだけですからしない方がいいと思います。くわえて、その子が死亡するまで「陽性検査結果が出たことがある子」という記録は覆りません。
 例えば病理検査でも、情報伝達不足があれば結果が変わることがあります。それは検査過程に必要な情報が足りなかったから解釈に変更を加えるということです。遺伝子検査では、陽性反応が出るか出ないかというだけですので、解釈も何もありません。検査の間違いを減らすためにできる一つの手段として、検査材料の採取は厳密にしないといけません。特に、各家庭で糞を集める場合はここが一番重要なのです。

陰性判定が返ってきた場合
 「提出された検査材料の中に、クラミジアの遺伝子は見つかりませんでした。」ということです。
 感染・保菌がないということの証明ではありません。
 血液を除けば、厳密には何とも言えないのです。気になるならまめに検査するしかありません。

じゃあ、元気な子の健康診断のクラミジア検査の意味ってなんなの?

 ここがとてもむつかしい話です。発症が疑わしい個体の疾病診断ではなく、元気な子の場合というのが一番むつかしいんです。
 今、こういった検査が受けられるようになったことで、定期検診としてご希望になる方が増えました。
 「オウム病」という病気について、一番上の、国立感染症研究所や愛知県衛生研究所のページ、小嶋先生の書籍にもいろいろ出ています。なるほど、不安になる内容ですよね。できればその不安から解放されたいでしょう。ただ、生物飼育の原点を再度考えてみてください。ある程度安全に飼育して楽しみたいのは当然ですが、何かやったら安全です、誰にも迷惑かけませんよ、って話はありません。人間同士同居したってそれは同じですね?あなたが症状が軽い風邪をひいて、知らないうちに同居人にうつすかもしれません。そして、うつされた方が寝込むほどになるかもしれません。子供が小さかった頃なんか、そんなのしょっちゅうですよね?
 物言わぬ鳥の病気で、特に、不顕性感染があるもの、検査で治癒を証明することがむつかしいものは、いつもグレーゾーンです。うつした、うつされた、って話ではなく、人に迷惑をかけないため、安心してお付き合いをするためというのが検査の存在意義の一番上に来ると思います。たとえば、
・サークルや友人と鳥のみせっこをする。繁殖させる。
・ペットショップに預けることがある。
・しつけの訓練を受けたい。
・同居人に免疫抑制剤を使用して病気の治療をしている人がいる。
・マンションなどの集合住宅で、近隣の住人の様子なんかわからない。
そんな理由がある方には、定期的に検査を受けることをお勧めします。「人に迷惑をかけないため」に、定期的に検査して陰性であることを確認するわけです。究極、お隣さんがオウム病になったとしても、私の子は半年に1回検査を受けてますと言えれば、それで絶対とは言えませんが、その姿勢は当然評価されるべきで、社会的にも安心材料が増えるということです。ショップなどでもルールが決まっていれば、そのルールを満たすレベルで検診を受けてますよというのは当然評価されるべきでしょう。

 オウム病クラミジアそのものは、自然界に普通にある病原体なのです。血まなこになって探せばどこかで検出できるでしょう。よっぽど特殊な生活をしていない限り、野鳥を全く見ない環境なんてありませんよね?いつどこで発生してったおかしくはないのです。そういうケースに備えて、厚生労働省が定めた検査ガイドラインでは、
糞便検査が採用されています。治療効果の判定も同じく糞便検査です。疑わしい個体群があったら全羽の血液を採って、チェックすれば!?というのが一番厳密かもしれませんが、手間と費用が掛かります。そのうえ、血液での検査は精密すぎるのです。そもそも、鳥類とクラミジアは共存関係といえますので、たとえ体内に保有していても、発症したり外界に排泄していたりしなければ問題とはなりません。(真田靖幸 VEC Vol.2 No.3 2004 P88-91 の内容を省略して書いてます。)また、抗生物質による治療をしたとして、陰性化した後はもう出ないの?ってことになるのですが、残念ながらそうではありません。体内に存在し続けている可能性があるのです。なので、一度陽性判定が出たならば、陰性化するまで治療して、そのあとは定期的に検査を受けることがおすすめです。ただし、その頻度についてはだれも明確な答えを持っていません。くわえて、新規に感染を起こす可能性だって否定はできません。この間陰性だったけど、知らないうちに発症・排泄している状況になってましたということが起こり得るわけです。

 過去にあったご相談として、家の人にオウム病が発生し、医師から「飼ってるインコを処分せよ」といわれたということがありました。単純にそれだけなら、その方針は間違いです。基本としては、人の検査機関では、異型肺炎としてオウム病と同じクラミジアの肺炎クラミジアと性病クラミジアもひっくるめて検査していますので、オウム病とは限らないのです。しかし、家の人にオウム病が発生した時に、飼っているインコの検査をして、まちがいなくオウム病クラミジアを排菌しているなら処分も考えないといけません。
 獣医師としては、「治療する」というのが本来のスタンスですが、「治る」「清浄化できる」という意味ではないのです。そういうケースに該当してしまった場合は、ご自身の「生物飼育」のポリシーと、社会的責任、ご自身は何ができるか、決断できるか、そんなことをもろもろ考えて、方針を決めないといけません。めったにないことですが、オウム病は人の死亡例報告がある病気なのです。残念ながら、わたしは、ご自身で掃除して、給餌して、飼育していますよというのでない限り、責任の範囲をきちんと限定できるケースでない限り、飼育継続をお勧めする立場はとりません。奥さんに任せてるとか、忙しくてとか、家の構造的にむつかしいとか、妥協範囲はどのくらいですかという模索をしないといけないなら、社会的に影響力のある病気の病原体を保有する生物を飼育管理するのに向いてないと思うからです。



 むつかしくてあまり楽しい話ではありませんが、こんなことをお話しています。皆さん各々にいろんな尺度、ポリシーをお持ちですので、こういった内容についてもご検討のうえ、ご依頼いただけると幸いです。

品野ペットクリニック品野ペットクリニック

獣医師     戸田昭博
愛玩動物看護師 戸田美幸

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