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瀬戸市品野町の動物病院。品野ペットクリニックです。

レプトスピラのワクチンについて

レプトスピラの予防に当院で採用しているワクチンはMSDアニマルヘルス株式会社のノビバックDHPPi+Lです。

レプトスピラ症とは?
 人のレプトスピラ症に関して、国立感染症研究所のページでわかりやすく解説されています。
(リンク)発生動向という面からもまとめられています。(リンク)
 レプトスピラ症は動物から人にうつる恐ろしい「
人と動物の共通感染症」です。病気の内容についてはHPをご覧いただくとして、ワクチンを検討するにあたっての注目は表3(リンク)です。この表は人での発生報告ですが、沖縄で非常に多いのがわかります。それと同時に沖縄県以外でもぼちぼち発生していることがわかります。発生件数の多い順に記載されていますが、最も多いのがヘブドマディスです。

では、犬の場合の調査結果は?ということになります。これについても国立感染症研究所でまとめが掲載されています。(リンク)
とても簡潔に書いてあるのですが、文字ばかりで目が痛くなりますよね。しかし頑張って読むと、ワクチンを選択するにあたって注目すべきはこの2点です。

・イヌのレプトスピラ症は, 従来血清型CanicolaとIcterohaemorrhagiae感染によるものとされ, 40年以上前からこれら2血清型の不活化全菌体ワクチンが使われてきた。しかしながら, この不活化全菌体ワクチンは血清型特異的な効果しかないため, 近年アメリカではこれら2血清型に替わってGrippotyphosaとPomonaが主要な感染血清型となっていることが明らかとなってきた。

・抗体検出および分離レプトスピラの解析から,
主要な血清群はHebdomadis, Australis, Autumnalisであった。

 レプトスピラの予防にはそれぞれの
血清型にあったワクチンが必要で、ヘブドマディスが発生している地域で予防のためにカニコーラのワクチンを接種しても意味がありません。「レプトスピラ症を、わんちゃんの病気予防を考えても、人への感染を予防するためにわんちゃんに接種するにしても、データから言えばヘブドマディスが必要である。」ということです。

 なぜ「データから言えば」なんてつくかというと、レプトスピラの診断のむつかしさがあるのです。一般的には、ペア血清といって、症状の出始めの時と、2週間程度間を置いたあとの血清を用いて抗体価を測定して、両者を比較して判断します。まずは診察時に「怪しいと思った」ということで家畜保健所に「疑診」として届け出をし、あとで確定するという作業になります。暑い時期ですから、よく似た症状を示すものに熱中症があり、毒物の誤飲による中毒なんてのもありますね。国立感染症研究所のページでも、以下のような記載があります。
「レプトスピラ症と臨床診断されたイヌ283頭の実験室診断を行った結果, 83頭のレプトスピラ症が確定し, 感染イヌは調査したすべての県で検出された。確定例の91%が8~11月に発生し, 約半数が9月の発生であった。感染イヌの年齢は5か月~13歳(中央値5歳)で, オスが63%であった。イヌの種別は, 猟犬が38%, ペットが62%であった。初診時の臨床症状は, 発熱13%, 嘔吐71%, 粘膜の充出血41%, 黄疸78%で, 致命率は53%であった。」
 つまり、「むむ!?これは??」と疑ったとしても、正答率は29%。ほかは暑い時期という注釈付きではあるものの、ワンちゃんの診察で時々目にする症状の子たちばかりということです。届け出伝染病ですから、我々も慎重になりますが、対症療法でよくなったり自然治癒する症例や、いきなり死亡した症例などの中にもレプトスピラ症は含まれているかもしれません。その中にほかの血清型があっても驚きません。

 日本獣医学会
誌で発表されたワクチン接種を受けていない犬の抗体調査を行った論文で、下記図のように報告されています。

Fig. 4. Geographical distribution of Leptospira antibodies detected in unvaccinated dogs. The numbers ofdogs never inoculated with any canine vaccine (Group C, n = 243) are shown for each prefecture. The prefectures where dogs with Leptospira antibodies were detected by MAT or ELISA are indicated by name,and the prevalence (%) shown. Listed for the relevant prefectures are the number of positive dogs found and the serovars detected (2 serovars were detected in some dogs): Ict, Icterohaemorrhagiae; Can, Canicola;Aut, Autumnalis; Hed, Hebdomadis; Aus, Australis.
     Iwamoto.E et.al J. Vet. Med. Sci. 71(9): 1191–1199, 2009

 このように、日本国内でいろんな血清型が確認されているのです。そのため、以前当院で採用していた京都微研のキャナイン11が最も適したワクチンといえました。しかし残念ながらメーカーの撤退によって2017年8月いっぱいで使用できなくなりました。新規採用した共立製薬のキャニバック9もメーカーの撤退により2020年3月で使用期限が終了となったので、ノビバックに切り替えた次第です。とうとうヘブトマディスは予防できなくなりました。

 品野は野生動物がいっぱいです。人知れず発生している可能性は否定できませんので、散歩のときは野生動物がした糞尿の跡や、下水道、沼や水たまり(野生動物が尿をしに来ます)などに近づかないように気を付けましょう。

品野ペットクリニック品野ペットクリニック

獣医師     戸田昭博
愛玩動物看護師 戸田美幸

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