本文へスキップ

瀬戸市品野町の動物病院。品野ペットクリニックです。

メガバクテリア感染症について

どんな病気?

病原体の名前:Macrorhabdus ornithogaster
俗称:AGY(Avian Gastric Yeast)、メガバクテリア、マクロラブダス



コザクラインコから検出されたメガバクテリア&よく似たやつらの写真です。(液晶画面で写真を撮ってます。汚くてごめんなさい)
赤色の矢印:メガバクテリア
水色の矢印:ごみまたは長桿菌
緑色の矢印:分類不能(カンジダかな?)

一般的な話として「治りにくい」「完治したということができない」厄介な病原体です。
「確実にメガバクテリアであるといいきれそうなもの」に関して、顕微鏡検査で発見できないレベルに維持することが目標です。

でも、実は、最初の問題は「本当にそれはメガバクテリアですか?」というところなのです。
この写真の緑色の矢印のものについては悩みます。見回してみてこれだけだったら後日再検査です。
観察される形にバリエーションがあるのですが、鳥種によって感染する菌種が違うのか、観察した瞬間の発育ステージが違うのか、よくわかりません。
本当にメガバクテリアなんだろうか?という疑念を持ちながら対応することもあります。

動物衛生研究所の花房先生の行った研究とセミナーでの情報では、
メガバクテリアは
・猛禽類以外ほぼ全鳥種で感染する。
・感染部位は鳥の腺胃の粘膜。
  感染した鳥は腺胃の胃酸分泌が低下するといわれている。
・症状
  急性型:胃から大出血を起こして急死
  慢性型:未消化便、異常な食欲、下痢、嘔吐、胃潰瘍のすえ、削痩して死亡に至る。
・完治は困難。薬剤耐性株の出現も報告されている。

診断における問題点
  
感染している個体の30%程度しか糞便に菌を排出しない。
  未消化飼料や別種のグラム陽性大桿菌と間違えやすい。
  培養系・診断系がない
   培養系開発のための研究で、発育には大量のブドウ糖、ショ糖が必要なことが分かった。
   至適増殖pHは3〜4。pH2でも増殖可。

こんな情報が挙げられています。これらの内容から、いつも気を付けなければいけないことは、「鳥が弱ったから砂糖水」はメガバクテリアがいる場合はダメだということです。また、薬を飲ませるのにそのままだとむつかしいからシロップに溶いて与えるというのは、投与した薬品の効果はでるかもしれませんが、メガバクテリアを元気にするのでよくないということです。

メガバクテリアが見つかったら?

当院では、まずは内服薬での治療を行っています。きちんと飲んでいただければとてもよく効きます。
オレンジ味がついていますので、鳥さんの味に対する好みというのが成績を左右するように感じています。
おいしい!もっとちょうだい!という子はまずうまくいきます。
おいしくないとして嫌がったケースは苦労します。くちばしの周りの羽に色がついてしまうのですが、それは落ちないんです。次の換羽を待つしかありません。 でも、投薬に苦戦はするもののおおむね良好な成績です。

メガバクテリアはとにかく早く発見して対処すべき病原体です。
進行してしまった状況によっては胃炎に対する治療や、吐き気に対する治療も併用します。しかし、投薬の種類が増えることはそもそも好ましいことではありません。風邪を引いたときに3種類も5種類も薬が処方されることがありますよね。そもそも風邪のウイルスをやっつけるための薬はないので、症状を緩和するためにいろんな薬が出るのです。薬を飲むだけで気分が悪くなった経験はありませんか?治療と称して鳥さんを追い込む可能性もあるのです。

うまく抑え込むことができたなら

一度検出されてしまったら、「この子にはメガバクテリアがいた」ことだけが確定します。基本として、「検便をしても、いるなら必ず検出できるとは限らない」ので、やっつけることができたのか、検便で検出できないレベルまで抑え込めただけなのかがわかりません。
となると、落ち着いたとしても時々検便をしましょう。いつ?というタイミングはよくわからないので、申し訳ないのですが、「時々」としか言いようがありません。月に1回でも、3月に1回でも結構です。おや?と思ったときはとにかく検便をしましょう。

メガバクテリアがいない子を入手するには?

これはとてもむつかしい話です。そういう子がほしいのは当たり前ですよね?
より確率の高い方法は、メガバクテリアが検出されていないことが分かっている友人宅のペアから生まれた子を譲り受けることです。それだって絶対とは言えません。
当院にご来院になる方の多くがショップでのご購入です。その場合は、現実的にはくじのようなもんだと思ってください。とてもきれいで元気な子からも検出されてしまいますので「みため」はあてになりません。

メガバクテリアは、発見されてしまったらその後はずっと心配が続きます。
万が一、そういうケースになってしまったとしても、頑張れると思える子を購入してください。
人にうつる病気ではありませんので付き合っていくことは可能です。メガバクテリアが駆除しきれず、ズルズルいっても元気な子だっていますから、たぶんいろんなメガバクテリアがいるんだねというのが私の実感です。もしかして、ほっておいても共存できるメガバクテリアもいるのかもしれません。でも、それを支えているのは飼い主の愛情です。そこが尽きてしまうようではやっていけなくなってしまいます。
購入時には一生を見てあげられる子を選んでくださいね。

これだけ警戒している病原体なのですが、よくわからないところもあります。

小鳥を診療する獣医師としては、ここまでに書いたことがいわゆる「セオリー」です。
一般的にどこの病院でもお話になる、一番堅いものの考え方と対処ですね。
でも、よくわからないところもあるのです。それは、今メガバクテリアは全世界規模で発見されていて、動物病院での対応も前述のとおり大変な病原体です。でも、小鳥が絶滅するとかってニュースは聞いたことがないですよね?
国内でも、あちこちですでに蔓延しているとお話を伺います。当院でも、ご来院になる子はいろんな店で購入された子なのに、みんなメガバクテリアって時期があります。(そうでない時期もあるのは、やっぱり流通の運不運なんでしょうね。)それに伴って不幸が起きているのも事実です。でも、健康診断なんか受けたことないけど??って人もいらっしゃいますよね?けがをして初めて当院にお越しになる方もいて、ついでに検便しても何も見つからなかったりします。健診をきっちり受けてらっしゃる方からすれば「えええ!?」ってな話です。
そのあたりを補完する考え方として、メガバクテリアは、単独では重症化しないんじゃないかという考え方があります。僕もその考えに賛成です。何か免疫状態を悪くする状況(例えば急に冷えたとか、ご飯が食べられなかったとか)になったときに、症状をさらに悪くしたうえで、メガバクテリア独自の悪さもする。でも、そんな状況が生まれなければ実は平穏に共存する。そんな病原体ではないかと思います。

メガバクテリアの苦戦例として、当院でもどうしても落ちないメガバクテリアの症例がありました。内服すると数が減ったり消えたりするんですが、再度検便すると出てたりします。診断が間違ってるのではないかと思ったこともあったのですが、顕微鏡で見る形や、染色した時の態度、内服への反応はやっぱりメガバクテリア。でも、とても元気に過ごしていました。
また、実は何もしなくても、鳥自身の免疫力でやっつけてしまうこともあるんじゃないかと思う病原体でもあります。それはなぜかというと、飼ってきたばかりのころにメガバクテリアが検出されて、内服していただいたのですが、投薬そのものに飼い主様が慣れてなくて、まともに飲めてなかった子でも消えたことが何度もあるからです。もっとも、内服量は1滴ですからとにかく嘴が汚れる程度与えていれば投薬できていますので評価が微妙です。

こんな考え方や経験談があるからといって、じゃあ何もしなくても大丈夫?ほっとけば?という病原体ではありません。基本的には健診で見つけて駆除すべきです。悩ましいですね。

品野ペットクリニック品野ペットクリニック

獣医師     戸田昭博
愛玩動物看護師 戸田美幸

inserted by FC2 system